H30第2回-通信線路-問1 電気通信主任技術者(線路)

(1) 次の文章は、平衡対ケーブルの一次定数と二次定数について述べたものである。

平衡対ケーブルは、長手方向に均一で一様な線路であり、その電気特性は【分布】定数回路として扱うことができる。この線路の往復導体の単位長さ当たりの抵抗をR、インダクタンスをLとし、また、往復導体間の単位長さ当たりの漏れコンダクタンスをG、静電容量をCとすると、これらのR、L、G、Cは、線路の一次定数といわれる。一次定数から誘導される【伝搬】定数γ及び特性インピーダンスZ は、次式で表される。
γ = (R+jωL)(G+jωC) = α+jβ
Z0 = √(R+jωL)/(G+jωC) = | Z0 | ejφ
ただし、jは虚数記号を、ωは伝送波の角周波数を、φは特性インピーダンスの偏角をそれぞれ表し、eは自然対数の底とする。この【伝搬】定数γの式において、実数部αは【減衰】定数、虚数部βは【位相】定数といわれ、これらのγ、α、β、Z は線路の二次定数と総称される。

(2) 次の文章は、非線形光学特性、非線形光学効果などについて述べたものである。 (ⅰ) 光ファイバ伝送における非線形光学特性などについて述べた次の文章のうち、誤っているものは、 (③) である。
① 光ファイバ伝送では、入力した信号光がコア内に閉じ込められるため単位面積当たりの光強度が大きくなること、低損失で長距離を伝搬するため媒質と光の相互作用長が長くなることなどにより、非線形光学効果が起きやすくなる。
② 光ファイバの波長分散は、ゼロ分散波長より短波長側の正常分散領域と長波長側の異常分散領域に分けられ、光パルス信号のスペクトルが正常分散領域にあるときは、波長が長いスペクトル成分ほど群速度は速くなる。
③ 誘導ラマン散乱(SRS)及び誘導ブリルアン散乱(SBS)において、入射光より高周波数側に発生する散乱光は、【アンチストークス光】といわれる。メモ:低周波数側がストークス光誘導ラマン散乱(SRS):stimulated Raman scattering3次の非線形光学効果の1つ。光が物質を構成する分子の格子振動(光フォノン)と相互作用をすることによって格子振動のエネルギーだけずれた光が散乱される現象をラマン散乱という。その散乱光をストークス光と呼び,そのストークス波長に増幅媒質が形成されている。入射する光が強くなった場合にラマン散乱光の増幅が生じたものを誘導ラマン散乱という。
http://mh.rgr.jp/memo/oe0002.htm

誘導ブリリアン散乱(SBS):stimulated Brillouin scattering光ファイバの中で発生する非線形光学現象。あるパワー以上の光を光ファイバに入力した場合にほとんどの光信号が入射点で反射される現象をいう。http://mh.rgr.jp/memo/oe0003.htm

④ SRSのストークス光は、入射光と同方向と逆方向の両方向に伝搬するのに対し、SBSのストークス光は、入射光と逆方向のみに伝搬する。

(ⅱ) 非線形光学効果について述べた次の文章のうち、正しいものは、(④)である。
① 二つ以上の異なる波長の光が同時に光ファイバ中に入射したときに、それらのどの波長とも一致しない新たな波長の光が発生する現象は、一般に、四光波混合といわれ、WDM伝送では、光の波長がゼロ分散波長より短く、大きく離れているほど四光波混合が発生しやすく伝送品質の劣化要因の一つとなる。
② 自己位相変調とは、入射された光自身の強度により位相が変化する現象をいい、これはファラデー効果による光ファイバの屈折率の変化に起因して発生するものである。ファラデー効果により、光パルスの前縁部分は高周波数側へ、光パルスの後縁部分は低周波数側へシフトする。メモ:直線偏光が物体中を透過するとき、その偏光面が回転する現象は旋光といわれ、 直線偏光の進行方向に対し平行な磁界をかけることによって旋光性が現れる現象はファラデー効果といわれる。 光アイソレータは、この現象を利用した光デバイスである。ファラデー効果とは、 直線偏光の光に磁界をかけることによって旋光性が現れる現象です。 このときの磁界は、光の進行方向に対し平行な磁界です。このファラデー効果を応用した素子が、ファラデー回転子です。ファラデー回転子を利用すると、特定方向の光のみを通過させることができます。 この素子は、光アイソレータと呼ばれます。光アイソレータの例として、偏波依存型光アイソレータの動作原理を、 下の図に示します。偏波依存型光アイソレータは、ファラデー回転子と偏光子を組み合わせた構造をしています。 入力光と反射光の偏波の違いにより、反射波を遮断します。https://www.manifold.co.jp/course/10shuningijutsusha/kakomon/20180625nature_of_light.html
③ 媒質の音響的格子振動と入射光の相互作用により新たな波長の光が発生する現象は、ラマン散乱といわれ、入射光強度が十分大きい場合に生ずる誘導散乱は、【SBS】といわれる。
④ SBSでは、散乱が強く発生する帯域幅が狭いことから、強い誘導ブリルアン散乱光を発生させるためには、スペクトル幅の非常に狭い入射光が用いられる。

(3) 次の文章は、光信号の劣化要因、光の性質などについて述べたものである。(ⅰ) 光信号の劣化要因などについて述べた次の文章のうち、誤っているものは、 (③) である。
① 波長によって伝搬速度が異なることに起因して生ずる分散は、波長分散といわれる。光通信に用いられる光パルスは、厳密には単一の波長ではなく波長の広がりを有しているため、波長によって伝搬時間に差が生ずることから、受信端でパルス幅が広がり信号が劣化する。
② 光ファイバの製造過程では火炎加水分解反応が用いられており、光ファイバ中にOH基が混入する場合がある。OH基は光ファイバ中に1 ppm 程度含まれているだけでも、吸収による伝送損失の増加要因となる。
③ SRSを利用した光増幅器であるファイバラマン増幅器は、光ファイバ伝送路を利得媒体として増幅するため、光信号を集中的に増幅させるシステムより低雑音なシステムが実現できるが、増幅可能な波長帯は、1.3μm帯に限定されて【いない】。
④ 信号の時間軸方向の揺らぎにおいて、変動が10 Hz 以上の揺らぎはジッタ、10 Hz 未満の揺らぎはワンダといわれ、一般に、ジッタは送受信回路中の電子回路内部の発振周波数の変動などによって発生し、ワンダは伝送路中の光ファイバ長の温度変化による伸縮などによって発生する。


(ⅱ) 光の性質などについて述べた次のA~Cの文章は、 【BCが正しい】。
A 光の波長に近い大きさの微粒子を含む透明な媒質に白色光を入射させると、入射側に近いところでは青い光が散乱し、残った赤い光が伝搬する。この現象はレイリー散乱といわれ、散乱による損失の大きさは波長の【4乗に反比例】する。メモ:http://www.wakariyasui.sakura.ne.jp/p/wave/kouha/hikaribunnsann.htmlhttps://denki9.exblog.jp/3016078/
B 光の吸収は、一般に、任意の波長の光が伝搬媒質中に存在する物質によって吸収されて熱に変換される現象であり、光ファイバ中における吸収には、石英ガラス自体が持つ紫外吸収及び赤外吸収のほか、コアとクラッド間に屈折率差を設けるために添加される金属イオンなどによる不純物吸収がある。
C 光のコヒーレンス性は、周波数軸上のスペクトル分布を測定することにより確認することができる。周波数軸上のスペクトル幅は、一般に、周波数や位相がそろったコヒーレンス性が高い光は1本の線状で狭く、また、周波数や位相がそろっていないコヒーレンス性が低い光は広がって観測される。メモ:波の持つ性質の一つで、位相の揃い具合、すなわち、干渉のしやすさ(干渉縞の鮮明さ)を表す。

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