H27第1回-通信線路-問2 電気通信主任技術者(線路)

(1)次の文章は、光ファイバの非線形現象について述べたものである。
石英系光ファイバは、本質的には非線形性が非常に小さい媒質であるが、光ファイバ伝送においては、光を細径のコアに閉じ込めるためにパワー密度が高いこと、低損失であり相互作用長を長くできることなどにより、各種の非線形相互作用が顕著に現れる。
高強度の短光パルスが光ファイバに入射されると、光の電界で光ファイバ物質中の電子の軌道が変化することによって光パルス自身が誘起した【屈折率】が変化する【光カー】効果といわれる現象が発生する。変化により位相が急激に変化する現象は、自己位相変調といわれ、光パルスは大きな周波数変化を伴う。
波長の異なる三つの光が3次の非線形分極を介して新しい第4の光が発生する現象は、四光波混合といわれる。四光波混合は、WDMシステムではチャネル間干渉の原因となることから回避すべき現象の一つであるが、これを積極的に応用した例として【波長変換】技術がある。
高強度の光が光ファイバに入射されたとき、光ファイバ中に発生する音波と光との相互作用が原因で非線形散乱が生ずる。非線形散乱の一つである誘導ラマン散乱は、入射光と【光学フォノン】との相互作用によって入射光が散乱され、入射光より周波数の低いストークス光が発生する現象であり、入射光の周波数を変えることにより任意のストークス光を発生させ信号光を増幅することが可能である。
(2)次の文章は、線形中継方式、発光・受光素子、光ファイバの損失などについて述べたものである。
(ⅰ)線形中継伝送方式について述べた次のA~Cの文章は、【BCが正しい】
A線形中継器に用いられる光ファイバ増幅器は、一般に、希土類添加光ファイバ、励起用LD及び光・電気変換回路で構成された簡単な構造であるため、信頼性に優れているが、3R機能を有しておらず、伝送路で生じたひずみや雑音が中継区間ごとに累積する特徴がある。
メモ:
線形中継器は増幅機能のみで光・電気信号を持たない1R中継器
B線形中継伝送方式においては、信号光と線形中継器で生ずる自然放出光との間のビート雑音は、線形中継器数に比例して増大し、また、自然放出光と自然放出光との間のビート雑音は、線形中継器数の2乗に比例して増大するため、多段中継伝送ではこれらのビート雑音が受信側のSN比を決定する支配的な要因となる。
C線形中継伝送で用いられるNZ-DSFは、DSFのゼロ分散波長を1.55μm帯より短波長側あるいは長波長側にずらした光ファイバであり、1.55μm帯における低分散とWDM伝送における四光波混合の抑圧を両立させている。
(ⅱ)発光素子について述べた次の文章のうち、正しいものは、【②】である。
①LDは、構成している化合物と構造によって発振波長が異なり、光ファイバ通信用のLDには、一般に、エルビウム、ツリウム、プラセオジム【ガリウム、アルミニウム、インジウム】などの元素を組み合わせた化合物半導体が用いられる。
②端面発光型LDは、半導体の両端面を光の方向と垂直にへき開する(結晶面に沿って割る)ことにより、光を放出する活性層と空気との間の反射によってレーザ発振する構造になっており、LEDは、活性層からの光を共振させずにそのまま外部に取り出す構造になっている。
③大容量長距離光通信システムでは、一般に、LDの活性層のごく近傍に屈折率の周期的な構造を作り、ある特定の波長のみを分布的にフィードバックさせることにより、安定した単一モードでの発振を実現したFP-LD【DFB-LD】が使用される。
④VCSELは、へき開された端面から光を出力する端面発光型レーザと異なり、レーザ基板面と水平【垂直】な方向に光出力を得るタイプの半導体であり、光ビームの放射角が広く光ファイバと高効率で結合することができる【光インターコネクションなどの光通信の光源、光ピックアップの光源、画像形成装置の光源などの民生用途で用いられている】。
(ⅲ)受光素子について述べた次の文章のうち、誤っているものは、【③】である。
①光通信システムで用いられる受光素子の受光可能な波長帯は、使用される材料の伝導帯と価電子帯のエネルギー準位差により異なる。受光素子の材料としては、一般に、0.8μm帯ではSiが、1.55μm帯ではInGaAsといった化合物半導体が用いられる。
②APDは、半導体中の電子と正孔のなだれ増倍作用を利用して大きな電流を得る受光素子であり、PIN-PDと比較して、10dB~20dB程度高感度となる一方、数十V以上の高い逆バイアス電圧が必要となる。
③受光素子で生ずるショット雑音は、電子が時間的又は空間的に不規則に励起されるために生ずる光電流の揺らぎによる雑音であり、同じ受光レベルにおいて、印加する逆バイアス電圧を大きくし電流増倍率を増大することにより低減することができる【増加してしまう】。
④受光素子の性能は、光電変換の性能を表す量子効率、光通信システムの中継間隔の設計上重要なファクタである受光感度、発生する雑音、動作応答速度などの特性により評価される。量子効率は受光素子の材料と構造により定まり、受光感度は受光素子の材料と構造のほかに印加電圧の大きさが関与する。
(ⅳ)光ファイバの損失、劣化要因などについて述べた次のA~Cの文章は、【全て正しい】
A光ファイバの損失発生の原因の一つとして、水素分子による光の吸収がある。この損失は、水素分子が光ファイバ中に存在することで生じ、水素分子を取り除くと損失は減少する。水素分子による損失発生の防止策としては、光ファイバの周辺からの水素の発生を抑える、光ファイバ内部への水素分子の拡散を防止する障壁を設けるなどの方法がある。
B光ファイバにおける損失特性の温度依存性は小さく、一般に、通常の布設環境においては問題とならないが、ケーブル外被は、熱的要因により劣化が早まり耐用年数が短くなる
場合がある。ケーブル外被の耐用年数は、熱的要因のほか、化学的要因、紫外線などにも影響される。
C光ファイバを放射線下で使用すると、石英ガラスの構造欠陥が放射線によって生じた電子や正孔を捕捉し、光を吸収することで光損失が増加する。放射線による光損失は、一般に、放射線量が増加すると大きくなり、減少すると小さくなる。

コメント